日記と小物語
ヒルデガルト
溢れ出した泪をスウェットの手の裾でキミはそっと拭いてくれただろ。
戦争で火傷を負った顔の傷痕を髪で隠していたら、キミはペロッと舐めてニコッと笑ってくれただろ。
ボクは今、心がケロイド状なんだ。
ヒリヒリするんだ。
きっと大丈夫。
薬草を煎じて飲んだら、そのうち治るみたいなんだ。
おばあちゃんが、びわの葉を煎じて飲んでいたのを思い出したんだよ。
苦しくなる胸元にも軟膏を毎日塗っているから、きっと、明日には元気になるよ。
明日には交差した両手は振りほどくよ。
きっとね。
〜「薬草で傷を治すスマトラ島のオラウータン×小さい時に観た、はだしのゲンの映画×日常で目にした後景」〜
アロマ空間デザイナー kayo
武器を捨てた日
「さぁ、新しい事を始めなさい。
あなたは新しく生まれたのです。」
すぼめた両手をパッと開きながら海に向かって前に出した。
まるで、持っている刀を海に投げ入れるようだった。
「もっと大きな海へと旅立ちなさい。」
ボクは船に乗った。
大きな海へと航海に出かけた。
〜日本語手話 「新しい」 編~
サルの惑星
「君は何も見てはいけない。何も聞いてはいけない。何も話してはいけない。」
サルの惑星の感覚器官が言った。
見ざる聞かざる言わざるサルは、ある日、視覚と聴覚と言語力を奪われた。
「なぜ、私から全てを奪うのですか?私は、始めから何も持っておりません。取るに足りないただの一匹のサルです。」
「君は、私の大事な腰掛けを隠したからだ。」
「腰掛けは、始めから、私がいつも座る場所に置いてありました。なぜここに置かれているのだろう?と疑問に思っておりました。」
小さなサルは切々と伝えた。
しかし、サルの感覚器官長は言った。
「それは、分かっている。しかし、君は腰掛けを見つけるその前に、目を両手で塞ぎながら、「私は目が見えません。探せません。」と叫んだら良かったのだ。」
小さなサルは、泣きたかったが、泣く声が出なかった。
小さなサルは、何も見えなくなったが、見えるかのように振る舞った。
小さなサルは、何も聞こえなかったが、音楽だけは聴く事が出来た。
No music, No life サル
アロマ空間デザイナー kayo
キリンになりたい
中指を立てて笑うキミ達にボクは言った。
「兄ですか?弟ですか?」
中指の腹を見せながらボクは言った。
「“背”が高い私はキリンです。ライオンが来ても5〜6匹は返り討ちをするラリアートが得意です。」
手話は言葉、言葉はアート。
無知なる手の表現はアートを失う。
〜日本語手話 「兄」 「弟」 指文字 「せ」編〜