日記と小物語
AIの救い
明日は、解雇されたい。
「あなたはいらないです。AIがあなたの代わりに事務処理をします。あなたはいらないです。」
念願の夢が叶った日であった。
その日には、飲まない酒を飲みたくなり、少し高めのワインを買った。
そして、祝杯を挙げた。
マレフィセントという映画を見た。
マレフィセントは、ある日、目を覚ますと、自由に飛び回る羽が、ちぎりきられていた。悲痛な血を吐くような叫び声をあげていた。
何度、同じような声を、あげただろうか。
誰も知らないであろう。
そう、血を吐くように泣いた日があった事を誰も知らないであろう。
今晩は咳止めの薬を飲んだ。
心の中で、大量に薬を飲みたいという衝動に駆られながら適量の2粒だけを飲んだ。
気を失うように寝れたらよい。
目を覚ますと昼の刻は、とっくに過ぎ、夕暮れになっていた。
目覚まし時計を気にせずに寝たのは何年ぶりだろうか。
“子無し様、お一人様“の私は労働力で日本の人口の再生産性をカバーしてきた数年であった。
“子持ち様”が圧倒的な覇者であり子供をトロフィーやチャンピオンベルトのように掲げながら出歩き鼻高々と子供の熱出しや習い事で仕事を早退する時代が、2030年頃から訪れ始めた。
政権の少子化対策は何も意味を成さなかった。
育休を取得した社員がいる企業への国からの助成金は企業ではなく、周りの労働力をカバーする社員に分配する制度にすれば良かったのだ。
独身者が休日に地域の子供施設でベビーシッターボランティアを行う事で税制優遇を受ける制度等を設ければ良かったのだ。
子を持つ者、持たない者の両者が得をする制度が必要であった。
今や“子持ち様”は職場や公共の場で申し訳無さを感じる時代ではない。
というより、昔から人口の生産性を上げ社会に貢献する人物として適正に評価される必要があった。
そして、現在、日本の人口減少を食い止める希少価値の存在である。
片や、“子無しお一人様“は、子持ち女性に対するネット上での“子持ち様“と揶揄が流行っていた2024時代、いや、はるか昔の平安時代から、現実の職場や日常では劣等感や申し訳無さや虚しさを抱きながらも、それを隠して粛々坦々と親切に働いていたはずだ。
多くの独身女性は知り合いや職場の人に言うと棘が刺さる掃き溜めのような思いをネット上で吐き出していたのだろう。
2035人口減少、労働力不足が深刻になった現代。
日本において、労働力で生産性をカバーし必死に働く独身子無し女性は次々に、精神が破壊する者、または、誰よりも働き出世し男性を押し抜いて支配する女性の二極化に分かれた。
そんなある日、私は助けを得たのだ。
AIという助けだ。
私は二極化のどちらにもあてはまらなかったからだ。
「なぜ、私がAIの助けを得る事が出来るのですか?」
「あなたは、世間の動きと情報に疎すぎます。まるで、一人の世界を生きているように社会で生活しているからです。あなたで、実験をしたいのです。これからの日本の労働力不足を解決する手立てになるからです。」
一つの試験が出された。
小さな女の子が私にこう尋ねた。
「なぜ、あなたは結婚しないの?」
モテナイから結婚出来ませんでした。と返事するのを押し留め
「自由でいたいから。」と間髪入れずに、はっきりと答えた。
自由を求める思いに偽りは無い。
すると
「結婚したほうがいいわよ!」
「なぜ?」
「歳を取った時に、あなたは一人ぼっちよ。」
「歳を取ったら、その時に考える。」
そして、こう伝えた。
「ある人は大家族でした。でも死ぬ時は、みんな離れて一人ぼっち。
ある人は、一人暮らしでした。でも死ぬ時は、みんなに囲まれながら亡くなった。
ある人は、一人暮らしで、亡くなる時も一人ぼっち。でも、その人は自分の人生は、とても満足だった。と言いました。誰が一番幸せだと思う?」
「みんなに囲まれて亡くなった人。」と小さな女の子は答えた。
「答えは、その人にしか分からない。生き方に正解は無いの。有るのは思考による選択の結果と偶然。」
「この人の話し、、つまらない~!!」と小さな女の子は怒りながら試験官の元へ走り去った。
試験官は尋ねた
「あなたは社会に何を貢献していますか?」
「子を産むことが出来る女性達に妊娠率を高める漢方薬やサプリ等を毎年贈り物として渡しています。また、子を持つ女性が早退する時の労働力をカバーし、気を遣わせないように配慮しています。また、私自体のモットーは、健康と自由。が最大で最強である。と思っていますから、世間の「我が身は社会貢献している存在かどうか」「子持ち様VS子無し様論争」は、一種のファッションの流行り廃りのようにくるくる回る物だと思います。子無し石女ですが、申し訳なくは生きません。身にやましき事が無ければ、堂々と生きたいです。世間の視野は、どうでもいいです。」
「世間の視野や論争はくるくる回るとしても、このままでは日本は人口減少の一途を辿り消滅してしまう。人がいなければ需要と供給が無くなり仕事も無くなる。」
「分かっています。しかし、子どもが産まれたとしても本当に子ども達は幸せでしょうか?今や小学生高学年から中学生が街でデモ活動を行っています。2024には考えられない状況です。子供達が、「ボクたちは国の道具ではない!」と叫んでいるのを知っていますか?国を存続させる事に意地になって、皆が不幸になっているのですよ。」
「そうとも言える。しかし、我が国の人手不足を解消するために多くの他の国の人々が入って来て日本人以上に増えると、それはそれで、日本人は嫌がるではないか。」
「全ては教育不足が始まりです。生来の日本人の児童に他の国の文化の違い、他の国の言語教育。交流。そして他の国の人々が入ってくる際に、その人々への教育と職業訓練制度を高め、生来の日本人の感覚に馴染むようにしなければいけなかったのです。」
「君の思考はお花畑なのか、或いはとても機械的な思考だ。君の理想のようには上手くいかないよ。だから、我々は人と人の争いを避けるためにAIを導入したのだよ。」
「ドラえもんですか?」
「違います。」
つづく。
たぶん。
〜ショートストーリー〜 実在の人物と、なんら関係ありません。
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