日記と小物語
let it be
「あのね。。」
「何?」
「ボクを見て」
「ちゃんと見てるよ。」
「あのね。」
「どうした?」
「わたしを見て」
「ちゃんと、あなたを知っているよ。」
「ボクは悪くない。あっちが悪い」
「どっちもどっち。」
「わたしは悪くない。あの子が良くない事を言ったの。」
「言わないで。て伝えよう。」
私は、わたしも、あなたも、ボクも見ている。
解決策は要らない。
ただ、聴いてほしいだけなのは分かるから。
ただ、甘えたいだけのコミュニケーションなのは分かるから。
冷え症の女
「あなたはなぜ、諦めているのですか?」
私は諦めているのだろうか?
「私は誰に対しても、全てを期待しません。期待は驕りだからです。老若男女問わず、誰に対しても、こうなって欲しい、こうであって欲しいとは思いません。現実を受け止め受け入れているだけです。」
すると、その人は言った。
「あなたは、なんて冷めた人だ!人を信頼し、ある程度の期待をしなければ相手は応えてくれないですよ。」
「相手は私の期待に答えるためのその場限りの表面的な行動や言葉を投げかける事しかしなくなるのが嫌だからです。」
「それは、あなたが相手の心を開くような会話をしていないからです。もっと、相手の心に耳を傾けなさい。本心を観察しなさい。」
「あなたの考えは正しいのでしょう。しかし、人の心の内は誰にも分かりません。例え、本心を話してくれたとしても、次の日には変わる事も、また忘れる事もあるからです。次の日の心も次の瞬間の心も本心だからです。誰も人が人の心を導く事は出来ません。」
「すると、これから先、あなたの諦めている心も諦めないように導かれる事はないのですか?あなたの冷めた心を見るとがっかりしますし、イラつきます。」
「誰も私に期待しないで下さい。
私は諦めではなく、人にも自分にも現実をただ受け入れ受け止めているだけです。
私は自分の考えは常に間違っているかもしれないという感覚がある事を信じています。」
一語
「もっとぼんやりでいいんだよ」
とバームクーヘンは言った。
「なんで?バームクーヘンが、ぼんやりしたらカステラやスポンジ生地になっちゃうじゃない。」
「はは、いいんだよ。それで。カステラの底にはザラメがある。一番美味い。スポンジ生地はロールケーキになってカラフルなフルーツとクリームをクルッと包み込むのさ。
最高じゃないか。」
「でも、輪郭のはっきりしたバームクーヘンがいいんじゃないの?」
「ボクは一本の棒に豚の丸焼きみたいにくるくると回転させられてるだろ?何度も何度も刷毛で生地を重ねて重ねて火加減を見ながら丁寧に丁寧に年輪を作ったんだ。
だから、分かるんだよ。
キミははっきりさせなくていい。
もっと、ぼんやりでいい。」
日本生まれのショートケーキはバームクーヘンの一言を聴いて少し自分を労ろうと思った。
愛の拒食症1話
近視眼
「キミは確か、7年前に前から4列目のボクから見て右から2番目の席に座っていたよね。キミはマスクをしていた。眼鏡もしていた。今と雰囲気が全然違う。」
その人の方向に身体を向けて
「誰ですか?」
戸惑いながら私は尋ねた。
「ボクを知らない?キミはボクを追いかけていたじゃないか。今日は印象が違うから分からないよね。」と笑った。
その人の笑い声で気が付いた。
「あ、私が追いかけていたあなたですね。なぜ、私を分かったのですか?私は、もう何年も追いかけていません。あの頃は眼鏡をしてマスクをして帽子を深く被って誰にも見られないように存在自体を消していました。」
「分かるよ。ボクには。キミの右目の下にはホクロが7つある。キミの瞳の色とホクロで気づいたんだ。」
「近いうちに、ホクロもシミもニキビ跡も何もかも全て消しに行きます。」
「なぜ?」
「自分の顔が醜いからです。
醜い顔を見たくないから鏡を最近、見ていません。」
「ボクの顔は?醜い?」
「いいえ。多分、素敵です。」
「多分?」とその人は笑った。
「正直に言いますと、私は人の顔は皆、同じにしか見えません。あなたが、いつも着ている服であなたかどうかが分かるのです。」
「同じ服を着て同じ体型の人が並んでいたら?どうやってボクを選ぶの?」
「匂いで見分けます。」
始めて近付いた彼からは、甘く爽やかな匂いがした。
「キミは自分をゆっくりと見つめるココロが必要だよ」