日記と小物語
2025-02-11 01:53:00
近視眼
「キミは確か、7年前に前から4列目のボクから見て右から2番目の席に座っていたよね。キミはマスクをしていた。眼鏡もしていた。今と雰囲気が全然違う。」
その人の方向に身体を向けて
「誰ですか?」
戸惑いながら私は尋ねた。
「ボクを知らない?キミはボクを追いかけていたじゃないか。今日は印象が違うから分からないよね。」と笑った。
その人の笑い声で気が付いた。
「あ、私が追いかけていたあなたですね。なぜ、私を分かったのですか?私は、もう何年も追いかけていません。あの頃は眼鏡をしてマスクをして帽子を深く被って誰にも見られないように存在自体を消していました。」
「分かるよ。ボクには。キミの右目の下にはホクロが7つある。キミの瞳の色とホクロで気づいたんだ。」
「近いうちに、ホクロもシミもニキビ跡も何もかも全て消しに行きます。」
「なぜ?」
「自分の顔が醜いからです。
醜い顔を見たくないから鏡を最近、見ていません。」
「ボクの顔は?醜い?」
「いいえ。多分、素敵です。」
「多分?」とその人は笑った。
「正直に言いますと、私は人の顔は皆、同じにしか見えません。あなたが、いつも着ている服であなたかどうかが分かるのです。」
「同じ服を着て同じ体型の人が並んでいたら?どうやってボクを選ぶの?」
「匂いで見分けます。」
始めて近付いた彼からは、甘く爽やかな匂いがした。
「キミは自分をゆっくりと見つめるココロが必要だよ」